伝える苦労、伝わぬ苦悩。はなぶさ旅館の”伊豆まぶし”へ込めた思いを、人へ伝える難しさ。

前回のブログで、はなぶさ旅館名物の山葵ご飯、”伊豆まぶし”へ込めた想いや、食べ方について書きました。

前回のブログ記事はコチラ

はなぶさ旅館の名物、山葵ご飯をアレンジした”伊豆まぶし” 来年には、伊豆長岡温泉の様々な旅館で、”伊豆まぶし”が食べられるように。 当館自慢のレシピは、伊豆長岡の新たな名物になるか?

伊豆まぶしを伊豆長岡温泉の名物にするため、レシピやオペレーション方法などを同業者に公開しました。

しかしながら、「想い」や「こだわり」を伝えても、実際に「伊豆長岡温泉で、伊豆まぶしをやっていこう!」と動かす事は難しい。

伝える力について、今一度考えてみた。

(将来、「あの頃は若かったな」と言う為の備忘録です)

想いやこだわりを伝える

前回のブログ中にも書きましたが、来年の静岡DC(ディスティネーションキャンペーン)期間中、伊豆長岡温泉では”伊豆まぶし”を売り出そうと、足並みを揃える事になりました。

静岡DCディスティネーションキャンペーン)とは

北海道旅客鉄道(JR北海道)・東日本旅客鉄道(JR東日本)・東海旅客鉄道(JR東海)・西日本旅客鉄道(JR西日本)・四国旅客鉄道(JR四国)・九州旅客鉄道(JR九州)のJRグループ旅客6社と指定された自治体、地元の観光事業者等が共同で実施する大型観光キャンペーンのこと。

要するに、JR・自治体・旅行会社などがタッグを組んで、静岡に観光客を呼ぶぞー!」という感じのキャンペーン。

先月4月に、当館・はなぶさ旅館にて、伊豆長岡温泉の経営者・女将・料理長・支配人などの方々へ向けた、試食会が行われました。

大勢の皆さんに、伊豆まぶしについて説明させていただいたのですが、伝える事の難しさを痛感。

伊豆市の山葵丼を参考にして作った「伊豆まぶし」。レシピを考えた僕にも、それなりに”こだわり”や”想い”があるのは当然です。

正直、その”想い”や”こだわり”を理解してもらえないのであれば、やってもらわなくてもいいかな。なんて思ったりしたり、しなかったり。いや、してたかな。

ですので、僕の説明が大事だと。しっかり伝えなければいけないと。

伊豆まぶし試食会での伝え方

試食会では、あらかじめ説明する事や想いなどを、プリントアウトして配ってしまいました。こう見えて、あがり症ですので。ええ。

で、配ったプリントの内容がコチラ

1、 何故伊豆まぶしを献立に入れたのか

【旅館という呪縛 旅館の料理という呪縛】

僕は東京にて板前の修業をしてきました。4年ほど働いたのち、はなぶさ旅館へと転職しました。最初、旅館の調理場の印象は「よく仕事しているなぁ」という印象。つまり細かな仕事も手作りでやっていて、こだわりが垣間見えました。東京の料理屋よりも、手作りの割合は多かったです。

しかしながら、料理のレビューなどは5点満点で4点台前半。そのこだわりはお客様へは伝わっていませんでした。この頃から僕自身の中で、もっと現代に合うような旅館料理のスタイルを考えていました。旅館は【旅館】という呪縛に少なからず縛られていると思います。

【旅館らしいサービス】【旅館らしい料理】を提供しなければいけない、という呪縛です。

その当時の料理は、先付・前菜・刺身・煮物・焼き物・・など一般的な旅館のスタイル。たぶん料理だけ見たら、鬼怒川温泉だか、箱根温泉だか、伊豆長岡温泉だか分からないと思います。

ここが改善すべき点だと確信していました。「伊豆らしさ」もっと言えば「はなぶさ旅館らしさ」を出すべきだと。もっと自由に献立を考えて良いと。

前料理長が退職した一昨年の夏に、献立をフルリニューアル。

「伊豆会席」伊豆の食材を使った会席です。それは自由な会席。

先椀に、韮山トマトのスープ、刺身はそれまでのインドマグロを廃止し、駿河湾産の地魚を使い、氷に盛るスタイルに。鮎のお刺身や、富士山サーモンの姿造りといった「ココでしか食べられないもの」を提供。メインは静岡そだちの炙り鮨。お客様の目の前で肉を炙ります。

その中で、食事のスタイルも変更しました。

これも「炊き込みご飯の釜飯」という、全国津々浦々の旅館が提供している食事スタイルへの不満がありましたので、僕は伊豆市の山葵丼に注目しました。

それまでは、お刺身に天城産本山葵を付けて、お客様に擦ってもらうというスタイルを取っていましたが、なんだかしっくりきませんでした。もうすでに主役級の「お刺身」に、本山葵を使っているもったいなさもあったので、食事に本山葵を使うことにしました。

但し、ただ山葵丼を提供していては、伊豆市の山葵丼と変わりません。もうすでに人気のある「山葵丼」の二番煎じであるので、少なからずオリジナリティを足さないと、「真似っこ」になってしまいます。

ですので、名古屋の「ひつまぶし」の食べ方を模倣。というのも、山葵丼は美味しいですが途中から飽きがきます。3度食べ方を変えることにより、最後まで美味しく、いや更に美味しく山葵丼を召し上がっていただけると考えました。

もちろん、「伊豆まぶし」は「ひつまぶし」から付けたもの。食べ方もそう。

はっきり言って、伊豆市の山葵丼よりも「伊豆まぶし」の方が美味しいです。修善寺温泉の旅館からも「伊豆まぶし」を献立に入れたいと相談されています。

2、 想い

伊豆まぶしに込めた思い

  • 天城産山葵のおいしさを伝えたい
  • 山葵丼の美味しさを伝えたい
  • 山葵を実際に擦るという体験をさせたい
  • 山葵丼という食べ方だけではなく、違った食べ方も提案したい
  • 食材を大事にするため、捨てる部分を再利用したい
  • 伊豆長岡の名物にしたい
3、こだわり

伊豆まぶしの決まり事

  • 山葵丼ご飯のお供お出汁、という流れのように3回に分けて食べ方を変化させる。
  • 天城産の本山葵を使う
  • お客さんが直接山葵を卸す体験をさせる
  • 出汁で使った材料やつまで使う時に出る大根の皮など、捨てる食材を再利用する。
  • お客様に食べ方が分かるような説明をするか、説明書きを置いておく。

お出汁の味や、ご飯のお供、ご飯の炊き方、味は各調理場のオリジナルで構いません。ただ、あまり曖昧な雰囲気ではやりたくないので、上記の思いと決まり事を理解していただいた旅館・飲食店に提供してもらいたいです。

当館でも大変好評を頂いているので売れるコンテンツだと確信しています。

しかし、1つの旅館で提供していても、絶対広がっていきません。多くの旅館・飲食店で提供してもらい、伊豆長岡の新しい名物になればと思っております。

目的は何か?人に伝わるように組み立てる必要性

以上が、試食会での説明です。(レシピについても細かく説明しましたが、今回は割愛)

説明では、熱い想い・こだわりは垣間見えるが、「人に伝える」「人に伝わる」という部分が抜け落ちている。大きな反省点です。

僕が伝えたい事よりも、伊豆長岡温泉の方々が知りたい事・動き出すきっかけとなる様な事を伝えなければならない。

試食会の目的は、【伊豆長岡温泉で、”伊豆まぶし”を推していく方向へ持っていく】です。【熱い想いを伝える】というのは、一つのファクターであって、目的ではありません。

説明だけで、「伊豆まぶしをウチでもやりたい」「自分の旅館なら、こういう風にアレンジしよう」などと、試食会の参加者全員に思ってもらえたか?と聞かれたら、胸を張って「はい!」とは言えない。決して。

実際に、伊豆まぶしを試食して頂けたので、皆さんにはご理解いただけたのだと思います。そう、伊豆まぶしの「美味しさ」に助けられた形です。

これが、もっと多くの人に説明だけで伝えるのであれば、上手くはいっていなかっただろう。

人を動かす事は容易ではない。身に沁みました。

ただ、伝える中に「美味しさ」をプラスすれば、比較的容易に人は動いてくれるという事も分かりました。試食会って大事ね。

これからは、「自分らしさ」×「伝える力」

先ずは伝える力を養おう。

*備忘録的なブログですみません。誰トクか分かりませんが、誰かの参考になればと。