”廃棄前提おじさん”をこれ以上増やさない為に

廃棄前提おじさん

先日、Twitterのタイムラインに流れてきたツイート。

この当該ツイートは、燃えに燃えて炎上していた。

僕自身、色々と思うところはあったし、このつぶやきに対して多くの人が「自分の意見」を呟いたりコメントしていた。

多くの意見が、このツイートへの非難のそれだった。

  • 「旅館の料理なんてこんな感じだろ」
  • 「和食のコース料理を食べた事ないのですか?」
  • 「これくらいの量なら普通だろ」
  • 「言葉の使い方だけでこんなに不快にさせられるんですね」

等々。

それはそれは大いに炎上していて、もし呟いた本人が僕なら”死んでしまいたい”と考えてしまう様な酷い有り様だった。

確かに、SNSに苦しめられて死んでしまう人もいるのかもな・・などと、どこか別の方向に考えたくもあったが、当該ツイートの言葉がこびり付いて思考はすぐに戻された。

「Go Toでちょっと高い旅館に泊まったら、大失敗。」・・・

一体、こんな悲しい”呟き”がどうして生まれてしまったのだろうか・・・と深く考えてみた。

想像の旅館との相違

炎上ツイートの内容は、めっちゃ削ぎ落として考えると「思っていた旅館と違った」というシンプルな話だ。

まぁ、書き方にトゲがあったとは思いますが、単純にお客さんと宿のミスマッチが起こっただけ。

ではどちらが悪いんだろう?

  1. お客さんのリサーチ不足なのか
  2. 宿側の説明不足なのか

当事者でない僕には真実は分からないが、とても悲しいミスマッチである事には違いない。

「ユーザーの想像した旅館像」「旅館が提供している宿泊モデル」

ここの差を埋めるにはどうしたら良いのだろうか。

旅館のアップデート

僕は旅館の人間だから旅館側の気持ちは分かる。

その上で、旅行好きでもあるのでユーザー心理も理解している。

まずは宿側の目線で考えてみよう。

旅館業界が、”旧態依然の体質が抜けきらない業界”というのは否定しない。

バブル期の団体旅行のビジネスモデルを、未だにやっている施設すらある。

もちろん、団体旅行が今も上手くマッチしている施設もある。が、そのビジネスモデルの固執した旅館の多くは廃業に追い込まれた。

正直、宿目線で言えば”団体旅行”はおいしい話なのだ。

  • 1件予約が入れば1日の売り上げが立ち
  • 部屋は収容人数最大レベルで使用できる

やめられない気持ちも分かる。だって楽だから。

語弊がありそうなので補足すると、「楽」というのは”イマジネーションをしない”という意味でだ。

”一つ大きな団体を取ってくる”を続ければ良い。まぁ、それもある意味では大変なのだろうが。

しかしながら、時代は大きく転換していて、ご存知の通り「団体旅行」から「個人旅行」へとシフトしていった。

また、旅行の多様化も進み

  • ラグジュアリーホテル
  • ビジネスホテル
  • リゾートホテル
  • グランピング
  • 老舗旅館
  • ホステル
  • 民泊
  • コンセプチュアルホテル

などなど、挙げていったらキリがないほどに選択肢は増えた。

LCCなどの路線も増え、国内旅行の行き先も多様化が進んでいる。

また、国内旅行だけではなく海外旅行の需要も拡大し、「週末旅行で韓国に」などお手軽に海外へ行く人も増えている。

逆に、インバウンド需要も爆発的に増え、外国人をターゲットにした宿泊施設も乱立している。

多様化が進む宿泊産業で、イマジネーションを諦めたら・・・と考えたら恐ろしい。

常にアップデートしていかなければいけない。

「現状維持は衰退」

この言葉が本質だろう。

マッチングする為の発信を

  • 宿の特性に合わせたサービス
  • 館内施設の整備
  • オペレーション

などをアップデートしていくのは前述した通りだが、それを発信して伝え続けるのが大事である。

「情報を伝える」という部分に、今回の問題を紐解く鍵がある様に僕は感じている。

「お客さんの想像する宿」と「宿が提供している宿泊モデル」を一致させる方法は、”情報発信”に尽きる。

旅館を運営していて一番怖い事は「ミスマッチ」の予約。

  • 民宿に行ってるのに「布団も敷いてくれない」と嘆く人
  • 非日常を売っている宿なのに「テレビが無い」と怒る人
  • 和風旅館なのに「朝はパンが良い」とレビューを書く人

どれも、ミスマッチによるものだ。

お客さんにとっても宿にとっても、こんな不幸な事はない。

どんな宿だって「全てのお客様に喜んでもらいたい」と本気で思っていると思う。僕はそう信じている。

正直、値段・原価率・人件費率など様々な部分で悩みはある。でも、でき得る最大限のおもてなしをしようと頑張っている。

  • 旅館には旅館のやり方で
  • ホテルにはホテルのやり方で
  • 民宿には民宿のやり方で
  • ホステルにはホステルのやり方で
  • ゲストハウスにはゲストハウスのやり方で

それぞれにそれぞれの特色がある。

だからこそ、それぞれがそれぞれの特色を発信するのは大事。

”僕らはコレを推している!だからこんな人に来て欲しい”と。

・・僕は出来ているだろうか?いや、まだまだだろうな。頑張らないと。

ユーザーはしっかりと情報キャッチを

宿予約する際に、あなたは何を見て宿を予約していますか?

  • 値段
  • 場所
  • サービス
  • 温泉
  • お部屋
  • 観光

などなど、人によって様々でしょう。

ただ、多くの人がやっているであろう「値段を入れて比較サイトで比べる」みたいな予約導線は、ミスマッチの原因になりやすい。

値段ももちろん大事な要素だが、その宿に何を求めているのか今一度考えて欲しい。

「クラシカルの旅館料理よりも、ビュッフェが良い」のなら、値段ではなく”ビュッフェ提供の宿”を選ぼう。

じゃらん・楽天トラベルなどのOTA(ネットエージェント)のサイトだけ見て、予約するのはやめよう。

宿屋の僕がオススメする、予約前に見るべきもの

  1. 宿のSNS
  2. 宿の公式H P
  3. 宿ブログ

とにかく、宿の発信する”生の情報”をキャッチして欲しい。

そうすれば、悲しいミスマッチは少なくなるはずだから。

一件でも、”廃棄前提おじさん”の様な予約が減って欲しい と心から思っている。

”廃棄前提おじさん”をゼロにする

今も昔も、ミスマッチは多くあったし、そこに多くのクレームが生じたはず。

レビューや口コミによって、クレームは可視化され、まるでその言葉が”正しい”とされてしまう現在。

当館のレビューでも

  • 「洋食が良かった」
  • 「富士山が見えないお部屋だった」
  • 「手作りの朝食が食べたかった」

などと書かれたりする。

「富嶽はなぶさが一つ一つ手作りの和食を提供している」という情報や、「全室富士山ビューのお部屋(天気の問題で見れない事も)」という情報が伝え切れていないのは、発信の力不足だと反省している。

まだまだ発信量は足りないし、発信の質も足りない。一丸となって取り組む課題だ。

生きた情報を発信し続ける

さて、多くの宿は”生の情報”を発信しているだろうか

  • ブログの更新が、まさか先月で途絶えていないだろうか?
  • SNSが、ただただクーポンの発行案内だけになっていないだろうか?
  • 公式HPは、ずっと据え置きじゃないだろうか?

新しい情報が無いのに、どうやって宿のコアな部分を知ってもらえるのか。

”廃棄前提おじさん”を生み出しているのは、もしかしたら宿側なのかもしれない。

僕ら宿屋が売っているのは、「サービス業の集約」だ。

  • 食べる
  • 寝る
  • 着る
  • 泊まる

他に、20時間もお客様が滞在するサービス業なんてありますか?

それだけの時間の滞在時間があれば、やはりミスマッチの確率は高くなる。

だからこそ、「生きてる情報」を常にユーザーに向けて発信しよう

一人でも”廃棄前提おじさん”がいなくなる様に。

そう思いながら、僕は今日も情報想いを届ける。コツコツとでも。