廃棄前提おじさん
先日、Twitterのタイムラインに流れてきたツイート。
Go Toでちょっと高い旅館に泊まったら、大失敗。出てきた夕食がこれ。さらに天麩羅とごはん、お吸い物。多すぎて到底食べきれない。シニア層がメインターゲットのはずなので、つまり廃棄前提(としか思えないし、実際にかなりの廃棄が出ているはず)。不味くはないけど、体験価値としては…… pic.twitter.com/hw3xsCQTfM
— よりかね けいいち (@k_yorikane) August 10, 2020
この当該ツイートは、燃えに燃えて炎上していた。
僕自身、色々と思うところはあったし、このつぶやきに対して多くの人が「自分の意見」を呟いたりコメントしていた。
多くの意見が、このツイートへの非難のそれだった。
- 「旅館の料理なんてこんな感じだろ」
- 「和食のコース料理を食べた事ないのですか?」
- 「これくらいの量なら普通だろ」
- 「言葉の使い方だけでこんなに不快にさせられるんですね」
等々。
それはそれは大いに炎上していて、もし呟いた本人が僕なら”死んでしまいたい”と考えてしまう様な酷い有り様だった。
確かに、SNSに苦しめられて死んでしまう人もいるのかもな・・などと、どこか別の方向に考えたくもあったが、当該ツイートの言葉がこびり付いて思考はすぐに戻された。
「Go Toでちょっと高い旅館に泊まったら、大失敗。」・・・
一体、こんな悲しい”呟き”がどうして生まれてしまったのだろうか・・・と深く考えてみた。
想像の旅館との相違
炎上ツイートの内容は、めっちゃ削ぎ落として考えると「思っていた旅館と違った」というシンプルな話だ。
まぁ、書き方にトゲがあったとは思いますが、単純にお客さんと宿のミスマッチが起こっただけ。
ではどちらが悪いんだろう?
- お客さんのリサーチ不足なのか
- 宿側の説明不足なのか
当事者でない僕には真実は分からないが、とても悲しいミスマッチである事には違いない。
「ユーザーの想像した旅館像」と「旅館が提供している宿泊モデル」。
ここの差を埋めるにはどうしたら良いのだろうか。
旅館のアップデート
僕は旅館の人間だから旅館側の気持ちは分かる。
その上で、旅行好きでもあるのでユーザー心理も理解している。
まずは宿側の目線で考えてみよう。
旅館業界が、”旧態依然の体質が抜けきらない業界”というのは否定しない。
バブル期の団体旅行のビジネスモデルを、未だにやっている施設すらある。
もちろん、団体旅行が今も上手くマッチしている施設もある。が、そのビジネスモデルの固執した旅館の多くは廃業に追い込まれた。
正直、宿目線で言えば”団体旅行”はおいしい話なのだ。
- 1件予約が入れば1日の売り上げが立ち
- 部屋は収容人数最大レベルで使用できる
やめられない気持ちも分かる。だって楽だから。
語弊がありそうなので補足すると、「楽」というのは”イマジネーションをしない”という意味でだ。
”一つ大きな団体を取ってくる”を続ければ良い。まぁ、それもある意味では大変なのだろうが。
しかしながら、時代は大きく転換していて、ご存知の通り「団体旅行」から「個人旅行」へとシフトしていった。
また、旅行の多様化も進み
- ラグジュアリーホテル
- ビジネスホテル
- リゾートホテル
- グランピング
- 老舗旅館
- ホステル
- 民泊
- コンセプチュアルホテル
などなど、挙げていったらキリがないほどに選択肢は増えた。
LCCなどの路線も増え、国内旅行の行き先も多様化が進んでいる。
また、国内旅行だけではなく海外旅行の需要も拡大し、「週末旅行で韓国に」などお手軽に海外へ行く人も増えている。
逆に、インバウンド需要も爆発的に増え、外国人をターゲットにした宿泊施設も乱立している。
多様化が進む宿泊産業で、イマジネーションを諦めたら・・・と考えたら恐ろしい。
常にアップデートしていかなければいけない。
「現状維持は衰退」
この言葉が本質だろう。
マッチングする為の発信を
- 宿の特性に合わせたサービス
- 館内施設の整備
- オペレーション
などをアップデートしていくのは前述した通りだが、それを発信して伝え続けるのが大事である。
「情報を伝える」という部分に、今回の問題を紐解く鍵がある様に僕は感じている。
「お客さんの想像する宿」と「宿が提供している宿泊モデル」を一致させる方法は、”情報発信”に尽きる。
旅館を運営していて一番怖い事は「ミスマッチ」の予約。
- 民宿に行ってるのに「布団も敷いてくれない」と嘆く人
- 非日常を売っている宿なのに「テレビが無い」と怒る人
- 和風旅館なのに「朝はパンが良い」とレビューを書く人
どれも、ミスマッチによるものだ。
お客さんにとっても宿にとっても、こんな不幸な事はない。
どんな宿だって「全てのお客様に喜んでもらいたい」と本気で思っていると思う。僕はそう信じている。
正直、値段・原価率・人件費率など様々な部分で悩みはある。でも、でき得る最大限のおもてなしをしようと頑張っている。
- 旅館には旅館のやり方で
- ホテルにはホテルのやり方で
- 民宿には民宿のやり方で
- ホステルにはホステルのやり方で
- ゲストハウスにはゲストハウスのやり方で
それぞれにそれぞれの特色がある。
だからこそ、それぞれがそれぞれの特色を発信するのは大事。
”僕らはコレを推している!だからこんな人に来て欲しい”と。
・・僕は出来ているだろうか?いや、まだまだだろうな。頑張らないと。
ユーザーはしっかりと情報キャッチを
宿予約する際に、あなたは何を見て宿を予約していますか?
- 値段
- 場所
- サービス
- 温泉
- お部屋
- 観光
などなど、人によって様々でしょう。
ただ、多くの人がやっているであろう「値段を入れて比較サイトで比べる」みたいな予約導線は、ミスマッチの原因になりやすい。
値段ももちろん大事な要素だが、その宿に何を求めているのか今一度考えて欲しい。
「クラシカルの旅館料理よりも、ビュッフェが良い」のなら、値段ではなく”ビュッフェ提供の宿”を選ぼう。
じゃらん・楽天トラベルなどのOTA(ネットエージェント)のサイトだけ見て、予約するのはやめよう。
宿屋の僕がオススメする、予約前に見るべきものは
- 宿のSNS
- 宿の公式H P
- 宿ブログ
とにかく、宿の発信する”生の情報”をキャッチして欲しい。
そうすれば、悲しいミスマッチは少なくなるはずだから。
一件でも、”廃棄前提おじさん”の様な予約が減って欲しい と心から思っている。
”廃棄前提おじさん”をゼロにする
今も昔も、ミスマッチは多くあったし、そこに多くのクレームが生じたはず。
レビューや口コミによって、クレームは可視化され、まるでその言葉が”正しい”とされてしまう現在。
当館のレビューでも
- 「洋食が良かった」
- 「富士山が見えないお部屋だった」
- 「手作りの朝食が食べたかった」
などと書かれたりする。
「富嶽はなぶさが一つ一つ手作りの和食を提供している」という情報や、「全室富士山ビューのお部屋(天気の問題で見れない事も)」という情報が伝え切れていないのは、発信の力不足だと反省している。
まだまだ発信量は足りないし、発信の質も足りない。一丸となって取り組む課題だ。
生きた情報を発信し続ける
さて、多くの宿は”生の情報”を発信しているだろうか。
- ブログの更新が、まさか先月で途絶えていないだろうか?
- SNSが、ただただクーポンの発行案内だけになっていないだろうか?
- 公式HPは、ずっと据え置きじゃないだろうか?
新しい情報が無いのに、どうやって宿のコアな部分を知ってもらえるのか。
”廃棄前提おじさん”を生み出しているのは、もしかしたら宿側なのかもしれない。
僕ら宿屋が売っているのは、「サービス業の集約」だ。
- 食べる
- 寝る
- 着る
- 泊まる
他に、20時間もお客様が滞在するサービス業なんてありますか?
それだけの時間の滞在時間があれば、やはりミスマッチの確率は高くなる。
だからこそ、「生きてる情報」を常にユーザーに向けて発信しよう。
一人でも”廃棄前提おじさん”がいなくなる様に。
そう思いながら、僕は今日も”情報”と”想い”を届ける。コツコツとでも。
宿屋として一番怖いのはミスマッチ。
“お客様の想像の旅館”と、実際”僕らが提供している旅館”との差が無ければ無い方が互いに幸せ。そこに高級とかリーズナブルとかは関係無い。
だからこそ僕らは事前に沢山の情報を届けなければいけない。
お互いが不幸にならない様に。
悲しいミスマッチが減る様に。— 「はな」富嶽はなぶさ/伊豆長岡温泉 三代目 花房光宏 (@hanabusamitsu) August 12, 2020
この方のニーズに合って「体験価値高い!」と思ってもらえる宿はきっと他にあるし、宿側もきっと考えがあってこのおもてなしをしてるはず。
こういう悲しいミスマッチを起こさないためにも、しっかりと宿のこだわりを発信していかなければならぬと思った見る蔵なのであった…… https://t.co/1EWuWAhLdn
— ホテルみるぞー@某大手リゾートホテルマン (@hotel_miruzo) August 12, 2020