先日、初めて料理教室を開催した。それもコラボで。
やってみて気づいたことがある。
料理教室と僕のやっている仕事は、似て非なるものだという事。
- 料理教室は「ご家庭で再現できるものを教える」
- 僕の仕事は「ご家庭では再現できないものを提供する」
だからこそ、僕にしか出来ない料理教室があるはず。
温泉旅館×体験。
これからの宿泊産業の柱になるはず。
僕は「料理」という体験で、人を楽しませたい。
初めての料理教室
先日、はなぶさ旅館内にて初めての料理教室を開催した。
前回のブログで紹介した、「短パンビール部番外編」での2日目に開催。ビール部メンバーでの料理教室。
知っているメンバーだけとは言え、決して内輪だけの緩い料理教室ではなかったことを、あらかじめ記しておく。
事の顛末はこうだ。
6月で2回目の短パンビール部合宿が終わり、7月初旬に販売された”短パンビール”も無事に2400本完売した。(短パンビール部についてはコチラのブログを参照)
要するに、短パンビール部というグループの役割は終わったのだ。
しかしながら、部員の多くは「またどこかで乾杯したい」「集合してビールを一緒に飲みたい」と思っていた。
その想いを、短パン社長が汲んで番外編という企画を考えてくれた。
1泊2日の大きな目的は「ベアードビール修善寺工場見学へ行く」というもの。
そもそも短パンビールが誕生したのは、短パン社長がベアードビールのライジングサンというビールに感銘を受けたから。
その2日間のコンテンツの一つとして、料理教室を取り入れていただいた。
ビール部メンバーの一人、北海道の美幌町で電気屋を営んでいる田中忍さんが、自身で毎月”シノズキッチン”という料理教室を開いているので、今回の合宿内でも出来ないか?
どうせなら、板前の僕とコラボしてみては?
という流れ。
料理教室へ向けての準備
今回の料理教室の参加者は、見学者を含め25名程度。
毎月料理教室を開催している忍さんでさえ、今までで一番大きな料理教室だという。
- どんな献立で?
- どのような流れで?
- どこに楽しさを散りばめるか?
- どこまで参加者に体験してもらうか?
- 必要な食材は?
- 必要な道具は?
- タイムスケジュールは?
決めることは山ほどあった。
北海道と静岡。1500km間でのメッセンジャーのやり取りは1カ月ほど続いた。
やり取りも含めて、忍さんがブログにしてくれているのでそちらを。「シノハナキッチン@短パンビール部番外編がなんとか無事終わったことをご報告いたします!」
献立は僕が
【一番出汁】
【ほうれん草のお浸し】
忍さんが
【スープカレー】
【人参ラペ】
料理は、準備が8割。いや、9割。だから、とことん準備を。
- 食材・料理道具の書き出し
- 時間内に終わるようにタイムテーブルの設定
- ポイント制にする事による”面白さ”の演出
- 優勝チームへのご褒美
- サポート役を頼む人の選定
などなど。
恐らく忍さんと一生分のメッセンジャーをしたのではないか?というくらい、メッセンジャー上で議論を重ねました。
・・・と格好良く書きましたが、ほぼ忍さんが決定していくのを見ていただけ。
「料理教室のプロ、すげぇ。。」って。
結果的にはポイント制が、料理教室のフックになって更に楽しんでもらえたのかと。
シノハナキッチン当日
コラボキッチンの名前は「#シノハナキッチン」
前日に、山ほどビールを飲んだが朝から仕込みを。若干スタート時間は押したが、無事にシノハナキッチン開始。
僕は和食の基本の「き」をお教えすることに。
和食の基本・一番出汁。
和食の多くの場面に登場する一番出汁は、意外としっかりとした作り方を知らないのでは?と考えての献立である。
作り方をここにも記しておく
一番出汁(材料)4人分
水 5合(900cc)
鰹節 30g
昆布 15㎝
差し水 50cc
以上の分量で、一番出汁約4合(720ml)取れます。(作り方)
①分量の水に昆布を入れて一晩置いておく。ハサミで昆布に切れ目を入れると、昆布の旨味が多く抽出します。
②昆布をつけた水を火にかけ、沸騰する手前(約90℃)で昆布を取り出す。
③湯が沸いたら鰹節を全て入れ、すぐに差し水を入れる。そのまま火を弱火にして3分置く。
④ザルにリードペーパーを引き、一番出汁を濾す。*臭みが抽出されてしまうので、あまり上から押さない。
一番出汁を使って、各グループで味噌汁を作ってもらった。
作った味噌汁を、短パン社長が飲み比べてジャッジ。一番おいしいグループに1ポイントという流れ。
お出汁をしっかり引いた味噌汁は、普段作る味噌汁とは格段に違って美味しいという事への驚きと、それぞれのグループで味がかなり違ってくるという事は何となく想像していた。
ご家庭では”ほんだし”を使って味噌汁を作る機会が多いと思うが、ほんだしは化学調味料で作っているのでグルタミン酸の”旨み”が刺々しいのだ。一方、一番出汁で作る味噌汁は、イノシン酸とグルタミン酸が柔らかく調和していてまろやかな”旨み”を醸し出す。
だから、一番出汁で作った味噌汁は自動的に美味しくなる。
そして、いつもの”ほんだし”とは味付けが違ってくるし、味噌汁は住む地域によっても味付けが違う。全国各地から集まった短パンビール部メンバーは、味付けが異なるのは当然のこと。
「あーー!全然違う!」と驚いていた短パン社長を見て、そしてその様子に驚いている参加者を見て嬉しく思った。
ちなみに、木更津の「九州ラーメン友理」を営む”のぶ子さん”は、早速再現してくれていた。
こうやって、すぐにやってくれる のぶ子さんはホント尊敬します。
その場では「やろう!」ってなるけど、いざやるとなると面倒くさいですからね。僕もそっち側の人間だし。
だからマジで尊敬します!ちゃんと出汁取ると美味いしね! https://t.co/sYNbBUSN1J— 「はな」陶芸の宿はなぶさ三代目 花房光宏 (@hanabusamitsu) 2018年9月5日
もう一つは、作った一番出汁を使っての”ほうれん草のお浸し”
ほうれん草のお浸し
(材料)
ほうれん草1束 削り節適量
濃口醤油小さじ2、一番出汁大さじ5小さじ1(作り方)
①ほうれん草は茎に十字に包丁を入れて水に浸け、土や泥を落とす。
②沸いたお湯を用意し、葉の方を持ちながら茎を30秒湯にて煽った後、手を離し葉の方も30秒湯で煽る。
③氷水に落とし、よく冷めたのを確認してから、ほうれん草の水をよく絞る。
④濃口醤油を一番出汁を合わせたものに、ほうれん草を浸けて30分置く。
⑤出汁醤油から取り出し、水気を絞ってからお皿に盛り付ける。削り節をかける。
以前ブログにもした”ほうれん草のお浸し”を、料理教室で直接指導。
個人的な想いとしては、「料理は丁寧に作ると美味しくなる」という部分を教えられたらなぁと。
茎と葉で茹で時間を変えたり、漬け時間を測ったり、薄味に仕上げたり。いつもとは違い、丁寧に下処理をしてもらう事を知ってもらう様に。
本当は、食べる直前に濃口醤油を垂らして欲しかったけど、もうそれどころじゃなかったのでね。現場は戦場でしたからね。
僕の方は、ほぼデモンストレーションの様な内容で終わらせた。
初めての料理教室で、あまり難しい事は僕自身が出来ないだろうという判断と、会場が厨房ではなくカセットコンロで料理をするという部分も加味して。
一方の電気屋料理人・忍さんの、工程も複雑なスープカレーを流れる様に、途中参加者を諌めながら進めてる姿を見て感動すら覚えた。
「場数が違う」
臨機応変に出来るかどうかが、料理教室では多く求められるのだと。そこでは経験がモノをいうのかな。
僕も、自分一人でやるのであれば、場数をもっと踏まないとと強く思った。
いつもの料理と料理教室の違い
料理教室と、僕の料理の仕事。同じ料理ではあるけれども、似て非なるものだという事に気づいた。
つまり、料理という共通項ではあるものの、目的が全く違うのだと。
- 料理教室は「ご家庭で再現できるものを教える」
- 僕の仕事は「ご家庭では再現できないものを提供する」
板前になった時に先輩から言われた、今も大事にしている言葉がある。
「家庭で主婦が作れる料理を出してちゃダメなんだよ。俺らプロにお金を払うってのはそれ以上のものを期待しているから。それを理解して仕事しろ」と。
料理する上で、ずっとそれは意識してきた。
驚き・感動・発見・・。普段の食事では味わえない味、普段の食事では出来ない体験をしてもらうために、我々プロがいるのだと。
しかしながら、料理教室は全くの逆。
料理教室では、ご家庭で再現できないものなど全く意味がないのだ。
「では、ここから丸1日煮込んで・・」などと言い始めたら、「ふざけんじゃねえ!ウチでどうやってやるんだ!」となる。
その場で完結させて、自宅でも「再現できる」「再現したい」と思わせる献立が、料理教室には必要なのだ。
「丁寧に・手間と時間をかけて・美しく」これは通用しない。
全く違う角度からの料理を考える必要があるのだと。
僕のこれからの課題かな。
しかしながら、料理のプロである僕にしか出来ない料理教室もあるのでは?などと、今回の経験を通して思ったのも事実。
まだ漠然としか想像できていないが、手探りでもやってみようかと。
「板前はなの料理教室」
さて、需要はあるかな?
サポートに感謝
今回の料理教室・シノハナキッチンで欠かせない存在だったサポート役。
開始直前に、料理教室でのサポートをお願いして、様々な部分で手伝っていただいた。
サポート役は、大阪のイラストレーターのつむゴさんと兵庫の瓦屋の岡さん。
快く引き受けてくれて、アレが無いコレが無いと、正に”吉幾三状態”の我々のサポートを献身的にしてくれました。本当に心から感謝しています。
2人がいなかったら、もはや成り立たなかったのでは?と。
他にも、観覧席にいた方々の手助けもあって助かりました。
料理教室って大変です、本当に。
サポート役の2人も、料理教室の事をブログにしてくれているので、そちらもご紹介。
岡さん「好きなことをやるには受け身じゃダメ。自ら行動しないと。」
つむごさん「まさか番外編があるなんて♪(*⁰▿⁰*) 予想だにしなかった「短パンビール部 番外編」に参加してきました!」
沢山の良い写真を撮ってくれて感謝です。さすが、僕の専属カメラマン。彼がいなかったら、このブログも完成してません。自分では素材が全くなかったので。
沢山の人の手助けがあって、楽しい会になったんだなとしみじみ。
料理教室は楽しい!・・が、難しい
これからの宿泊産業は、「体験」がキーポイントになってくると個人的に考えている。
- その土地ならではの体験
- その施設ならではの体験
それが価値になり、魅力になる。
旅館が独自のコンテンツを持つ事で、お客様が呼べる様に。
衣・食・住、全てをまかなう旅館だからこそ、体験のコンテンツの幅は広いはず。
体験を僕らのコンテンツにしよう。
では僕が提供できる体験は?
やはり料理になるだろう。
料理教室は、これからの旅館の、いや、僕の重要なコンテンツになるのかもしれない。
料理教室をやってみて心から楽しかった。しかし同時に、その難しさも多分に感じた。
楽しませながら、学ばせて、喜びを提供する。しかも自宅で再現できる様なもので。
僕にしか出来ない料理教室の形を模索する。僕なりの料理教室を。